記録


記録を更新するには今日しかないと、私は思った。
そのためにはまず、お腹が重いときは無理である。
睡眠不足は慢性的にそうだが、あまりひどいときはだめだ。
さらに、体が固くなりやすい秋・冬場の到来を避けたかった。
まだ残暑の残る間に更新したい。
そして、大事な条件の一つは、
コースを一人で使えることだ。
コースに人が他にいると、その人を避けるようにして泳がなければならず、
特にバタフライがやりにくくなる。
また、常にコースの右側を泳ぐので、距離的なロスが出る。
今日、最初見たときには最速レーンに人がいたが、
シャワーを浴びている間に、上手い具合にいなくなってくれていた。
チャンスだと、私は思った。
しかし、下の階から駆け上がってきたので、まず息を調えたい。
ところが、そうしている間に……


同じコースの反対側に、一人の女性がフラフラと立った。
見たことのない人だった。
たぶん、向こう側から泳ぎ始めてはいけないことを、まだ知らないのだろう。
そして、これがノンストップで泳ぐ人のための最速レーンだということも。
なので、この人が水に入ってしまう前に、
泳ぎ始めなければならなかった。
そう思った私は、時計の秒針が60にくるの待たず、
30のところで水に入った。
そうして、思い切りプールの壁を蹴った。


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