第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 六日目


 朝、6時半前に行ってみると、すでに何人かの人がバジリカ前で待っていた。
 ミサが始まり、司祭の説教になって驚いた。壇上から「どこから来られました?」と語りかけられたのだ。慌てて「Japan」と答えたが、こんなことは日本ではあり得ない。ましてここは、世界的に有名な大聖堂なのだ。
 ミサが終わってから、僕はどうしたわけだか、この神父の許を訪ねたくなってしまった。普通、そんなことは決してしないが、香部屋(司祭の控室)に勝手に入り、祭服姿の神父に話しかける。すると神父は「お〜〜!よく来ました」と言って手を握りしめてくれた。
 現ローマ法王と同じポーランド人である彼は、19歳のとき、神学生として、原爆で亡くなった日本人の話を聞いた。ナガイタカシ(永井隆)という人で、「神の恩寵にすべてを捧げる」と言って亡くなった。
「それは、こんな日本語でした。●×$▲&■……」
 意味が分からない。正しい日本語かどうかと言うので、違うと答えた。すると、「ワタシ、コノ日本語、30年間、覚エテキマシタ。ワタシ、騙サレテマシタ」
 そう言って、神父は悪戯っぽい笑みを浮かべた。ちょっとしたキャラだ。いずれにせよ、彼はそれ以来、尊敬してきた日本人には一度会ったきりで、今日が十何年ぶりだというのである。
 巡礼の皆さんに会いたいと言って出てきた神父は、言った。
「ファティマの聖母は平和の元后(女王)ですが、皆さんは平和の使徒です。この巡礼の旅が充実して、日本に帰ってからも幸せでありますように、祈っています」
 そうして、覚えたばかりの「アリガト、サヨナラ」を繰り返しながら、去っていった。
 後で分かったことが一つ。参加者の一人は、この神父と自分たちとは何かのつながりがあることを直観したという。それが正しいなら、どうかこの神父さんを連れ出してくださいと、彼女は密かに祈った。そんなこととも知らぬ僕が、のこのこ神父を連れ出してきたとき、彼女は驚いて声が出なかったという。
 その後、ファティマの聖域を巡礼し、聖母出現の歴史を示す蝋人形館を見学した。残った時間で買い物。聖母が現われた場所の土付きロザリオを買う。
(クリックで画像拡大)
020705-1

 

020705-2

 

020705-3

 

020705-4

 

カテゴリー: 大いなる生命とこころの旅 パーマリンク

コメントを残す