国連宗教者会議 4


 この日、ふたたび声は出なくなっていた。隣の人との会話もまともにはできない。それでも、あのインディアンのおじさんを見つけて、僕はなんとか言った。
「おかげさまで昨日だけ、声が出たのです。ありがとうございました」
 するとおじさんは、まるで当然であるかのような顔をして言った。
「私、日本ニ行ッタコト、アリマス」
 今度はいつ日本に来られるのですかと言うと、何と彼は、
「明日デス」
 と答えた。そして、こちらが驚いているのを楽しむようにして、
「明日、トランジットデ成田ニヨリマス」
 と付け加えた。
 この日、もう一つ嬉しいことがあった。タイ人が、なんだかやたらと「日本人?」と尋ねてくる。そうだと答えると、彼は言った。
「日本カッタ……」
「……?」
「日本カッタ、ナカッタ!」
「おおっ!」
 その瞬間、思わず両手で握手し合った。
 偉い人びとが難しい理屈をこねるよりも、何かの価値観(たとえそれがスポーツであれ)を共有することのほうが、意外と世界を調和に導くのではないかと感じた一瞬だった。


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