巡礼 9


どうしてよいか分からない日の続くなか、ある日リタは、ファティマで聖母出現を受けたシスター・ルチアの伝記を通信販売で注文した。
ところが、本とともに送られてきたのは、「9ドル余分でした」という伝票だった。そんなはずはなかったが、同じ出版社のカタログを見てみると、次のような題名の本が目に入った。
『聖母は本当にメジュゴリエに出現されたのか』
値段は6・95ドルで、送料が2ドル。配送には通常、6〜8週間かかるはずであったが、不思議なことに本は4、5日で届いた。この本を、彼女はむさぼるように読んだ。
それは、1986年6月18日の夜のことだった。ロザリオの祈りをした後で、リタはこんな声を聞いた。
『なぜ、あなたは依り頼まないのですか?』
「頼むって……?」
驚きつつも、言葉が彼女の口をついて出た。
「メジュゴリエで6人の子供たちに現れたマリア様、どうか御子に、私を癒してくださるようお頼みください。御子は、信仰は山をも動かすと言われました。私はそれを信じます……」
言い終えた後、リタの体を電流が走った。
翌朝は普通に目覚めた。昨夜は、そのまま眠ってしまっていたようだった。
しかしその日、異変が起きていた。足にかゆみを感じたのである。もう長い間、木切れのように無感覚だった足に、感覚が戻っていた。
気がついてみると、爪先が動く。矯正具を外してみて、そこにあるのは他人の足かと彼女は思った。足がまっすぐになっていたのである。
彼女はしばらく呆然としていた。が、我に返るとスカートをたくし上げ、歩いてみた。自分の足で歩いていた。
聖母に感謝し、部屋から部屋へと歩き回った。歩けるどころではなかった。階段を駆け上がることすらできた。
彼女が最初に電話したのは、教会の主任司祭だった。
「神父さま、メジュゴリエのマリア様が癒してくださいました!」
「あなた、誰です?」
「リタです。癒されたんです!」
「リタ、座って、よく聞きなさい。落ち着いてアスピリンを二錠飲み、それから精神科の医者を呼びなさい。約束するね?」


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