帰還


 インドから帰った。いつものことながら、嬉しい。心からほっとする。
 初めてインドに行ったのは1990年の11月。三カ月滞在して、年が変わり、91年に帰国した。飛行機が成田に降り立ったとき、乗客の間から拍手が湧いた。ぼくは思わず、それに便乗していた。
  機外に出れば、当然のことながら日本人の職員がたくさんおられ、ますます嬉しくなってくる。特に、あのベルトコンベアのような荷物受け取り所に立っていた日本女性の、普通に日本人らしい平板な顔を見て、ぼくは思わず全身が弛緩しそうになるほど嬉しかった。『理性のゆらぎ』は、機内で寝込むシーンで終わっているが、その後のことである。
 当時、e-mailのようなものはなかったので、帰ってきてから整理するのは留守電とFaxだけだった。今日ではそうはいかない。これから500ほど溜まったメールを読み、返事をしたためる。毎回、楽しみでもあり、また、ときどきは怖くもなる作業である。


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