アダムの肋骨4


それは映画や、ドラマでのみ見ると思っていたような光景だった。
私は助手席で、絞り出すような唸り声を何度かあげた。
正気にもどって運転手に声をかけると、幸い、彼女のほうは無事なようだった。
相手のタクシー運転手は、すでに車外に出て電話連絡を始めていた。
私は、なんとか車外に出、タクシー運転手に「大丈夫ですか?」と声をかけた。
すると、それまで普通に電話連絡をしていたように見えた運転手は、
突然、フラフラッと気を失ったようになり、
道端の植え込みにへたり込んでしまった。
ドラマや映画では、事故を起こした車のクラクションが鳴り続けるシーンがよくある。
それは運転手がハンドルの前に覆い被さるからそうなるのだと思っていたが、
ちょうどそのように、タクシーのクラクションが鳴り続けていた。
閑静な住宅街での大きな衝突音と、鳴り続けるクラクション。
野次馬が次々集まってきて、われわれの様子を遠巻きに見ていた。
なかには、近寄ってきて「救急車を呼びましたよ」と声をかけてくれる人もいた。
救急車!?……


私は愕然とした。
それに運ばれるわけにはいかなかった。
私は、伊勢に行かなければならないのだ。


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