天才 1


その昔、高校の数学の先生に次のような質問をしたことがある。
「数学的に正しい命題は、すべて証明が可能なのでしょうか」
先生は返答できないまま、そんなこと、考えたこともなかったという顔をした。
私が相当いやな生徒だったことは、間違いない。数学者にも、哲学者にも答えられないようなことを、高校の先生に確かめようとしたのだ。
だが、私自身は、一つひとつの数学の命題よりももっと深い、「真理」の奥深くが知りたかった。
試験問題のレベルでは、正しい命題はすべて証明できる。証明せよ、と出題してはみたものの、誰にも証明できない問題だった、ということでは入試にならない。
ところが、実際の数学の世界には、正しいようだが証明できない、またはできていないという命題が多数存在する。そうしたものを、数学者は「予想」と呼ぶ。
フランスの数学者・哲学者アンリ・ポアンカレ(1854〜1912)は、1904年、幾何学に関する一つの予想を示した。
例えば、野球のボールとキャベツは幾何学的に同じものに分類できるが、浮輪のように穴の開いたものは違う。
このような、多次元の空間の形を分類するための条件についてポアンカレが予想したある命題は、4次元以上では証明されたものの、3次元では誰にも証明できないまま一世紀が経過していた。
西暦2000年、米国の富豪が創設したクレイ数学研究所は、2001年から始まる新しい千年紀(ミレニアム)を記念して、ポアンカレ予想を含む難問7題を「21世紀を象徴するミレニアム問題」として発表、1問につき100万ドル(約1億1600万円)の賞金をかけた。
その前も後も、何年かに一度、ポアンカレ予想が解けたという論文が提出された。が、そのすべてが間違いだった。


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