美学 8


勝った! ……私を含め、会場のすべての人がそう思った。
前へ前へと出ていけば、どんなに強い相手にも一瞬のスキが生じる。それは、頭で考えてやれることではない。長年、さまざまな格闘界で戦ってきた大山峻護の、動物的カンがそうさせた。
ところが次の瞬間、会場全体が唖然としていた。相手を倒し、寝業に持ち込んだはずの大山君のほうが、身動きがとれない。サム・グレコは彼を下から抱きかかえ、まったく動けなくさせたのだ。一体どうなってるんだ、大山はチャンスじゃないか……。会場の多くの人がそう思ったに違いない。
だが、それが体格差というものだった。大山峻護は動くことができないどころか、ほとんど窒息させられそうな脅威を感じていたに違いない。そうして別れたときには、いつの間にか彼の顔面が鮮血に染まっていた。
満を持して持ち込んだ寝業を封じられ、逆にスタミナを消耗した彼に、空手王の拳と脚が容赦なく浴びせかけられる。大山も必死で防戦するが、この好機を逃すほど、空手魔王は普通の人間ではなかった。


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