美学 2


2月16日。決勝に進出した5人のなかで、ブラッドバリーは圧倒的に……弱かった。問題にもならない。なんとか離されないようにして、最後まで滑ろう。そう思っていたに違いない。
勝負は、最初からついていた。競技場を数週し、最終コーナーにさしかかったとき、前方で4人がメダル争いをしていた。あとは滑り終えるだけだった。
……が、運命の女神はこの夜も弱者に微笑む。前を行く4人が交錯、4人とも転倒したのだ。競っていたら、彼もそれに巻き込まれただろう。ところが幸い、ブラッドバリーは圧倒的に弱かった。転倒した先陣の間隙を縫って、一着でゴール。栄えある南半球初の金メダリストとなった。
帰国した彼を、故国のマスコミと大観衆が待ち構えていた。世界一幸運な男。それは、連日マスコミを賑わすに充分な話題だった。
テレビ出演、講演、CMの依頼が引きも切らない。洗濯する暇もなく、スーパーで下着を山ほど買い込もうとしたら女の子にサインをせがまれ、その場に下着をぶちまけたこともあった。
ほどなくしてブラッドバリーは、故郷に2500坪の豪邸を建てた。すべてキャッシュで支払った。


カテゴリー: スポーツ パーマリンク

コメントを残す