心中 1


かつて東大に、上村勝彦先生という、サンスクリット詩学の大家がいた。この先生が助教授に着任された頃、ある出版社から一つの依頼があった。
「インドの大叙事詩『マハーバーラタ』の全訳をお願いできませんか」
太古の大叙事詩として知られる『マハーバーラタ』は、全10万詩節、20万行になんなんとする大作である。同じく大叙事詩といわれるホメロスが併せて2万7000行余にすぎないことを思えば、その大部ぶりを想像できる。
そこで先生は考えた。これから毎日10詩節を訳せば、1万日かかる。毎年300日をこの仕事に費やすとして、30年余り。
しかし、英訳からならまだしも、サンスクリットの詩を毎日10詩節訳すとなると、他に自由な時間はなくなるだろう。年間300日をこれに費やすのも、実際には不可能だ。
だがもし、毎日20詩節、30詩節を訳すことができれば、その半分、1/3の時間でできるかもしれない……。


カテゴリー: 人生 パーマリンク

コメントを残す