記録 2


 ところが5月に入ると、イチローは猛チャージをかける。月間50安打。さらに7月、8月と50安打以上を放ち、終わってみれば大リーグ記録を更新。オールスター後の打率は、実に4割2分を超えた。
 あと12試合で19本、などという局面があったが、プレッシャーもかかろうに、大丈夫かと思って見ていた。が、一試合に5安打、4安打と固め打ちして、一気に記録への距離を縮めた。
「プレッシャーはアスリートにとっての醍醐味」などと、イチローは嘯いた。これこそ、彼の恐るべき才能の証でなくて何であろう。それに加え、彼は怪我をしない。もともとの強靱な肉体に加え、誰よりも時間をかける入念なウォームアップ、デッドボール性の球を巧みに交わす反射神経などが、その秘密といわれる。
 関係者は口をきわめてその才能に賛辞を送る。が、私が何より好きなのは、イチローの次の言葉だ。
「小さなことを積み重ねていったとき、とんでもないところに自分がいたのを発見した」


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