偶然 2


「青山先生……」
 先にそう言ったのは井手氏のほうである。なんということだろう。こんな、ポルトガルの小さな街で……。美しい奥様も、驚いた表情をしている。
「こんなところで、何してらっしゃるんです?」
 それはこちらが言いたいセリフだ。ともかくも互いに知人を紹介し、再会を喜びあう。
 彼らは、たった一日のポルト滞在だと言った。たまたま夜、こうして食事に出、翌朝早くには帰国の途につく。その、わずかな時間の再会だった。
 それにしても不思議である。井手氏は前の日に、なぜかぼくのことを思い出していたという。果して、その思念がこういう偶然を生んだのか、あるいは、こうなることを氏が予知したのか……。
 いずれにしても、人生は偶然の連続だ。幸運もくれば、不運もくる。ほとんど地球の裏側に近い場所、ドウロ川沿いのきらきらした夜景を見ながら、ぼくはこれはまずいかもと思い始めていた。
(もしかしたら、人生の運の大半を、これで使い果たしたかもしれないぞ……)


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