叙勲 2


 もっと感激したのは、キャンパスを歩いているときだった。高校の化学の教科書や、大学の物理の専門書の著者たち、ノーベル賞候補といわれる人たちが、キャンパスを普通に行き来している。それを見たとき、そして、そういう人たちの講義を聞いたり質問したりすることができたとき、ああ、東京に来たんだ……と思ったものである。
 ところが、今回、きらびやかな舞台や俳優さんたちを見ても、あのころのような感慨は起きてこなかった。富や名声や、美しさを兼ね備えた人たち。芸術や文化の神々 から特別な愛を享受し、幸福を一身に享受するために生まれてきたように見えるあの人たちも、親しくなってみると皆、普通の人と同じ悩みに苦しんでいる。え?この人が、こんなことで悩んでいる?世間の人には、そんなこと、絶対に信じられないだろうみたいな……。


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