利家とまつ 1


 NHK大河ドラマを初めて見たのは、小学四年生のときである。石坂浩二さん主演の『天と地と』。戦国の武将・上杉謙信の世界に、あっと言う間に引き込まれた。海音寺潮五郎先生の同名の原作が、僕が初めて読み通した小説となり、いまだに数少ない読破小説の一冊である。
 その次の年は、平幹次郎主演で『樅の木は残った』。文学的に高度な作品であることだけは分かったが、上杉対武田のような明快な図式もなく、幕府の老中に田舎大名がいじめられる物語のようにしか見えず、子供心につまらなかったのを覚えている。
 翌年、『春の坂道』の冒頭近くのシーンは、今も忘れられない。関が原の戦いに敗れた石田三成が、刑場にひったてられる。群衆の罵声と、徳川方武将の冷たい視線のなか、一人の農民が三成に駆け寄るのである。
「お殿さま、どうかこの柿をお食べくだせーまし!」
 ところが、三成は答える。
「柿は腹を冷やすというでな……」
 これから処刑される者が何を言うかとみな笑うが、家康の家臣であった柳生宗矩だけは「これで三成も救われた……」とつぶやいたのだった。


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