聖者の世界 4

 空港に着いてしまえばもうこちらのもので、遅刻の心配からは解放される。しかし、飛行機に乗ってからも、このたぐい稀な偉人の物語を読み続ける。
 彼の熱烈な信奉者の一人は、他ならぬ現在のローマ法王であった。ヨハネ・パウロ二世がまだヒラの司祭(カロル・ボイティワ)であった頃、彼はポーランドの片田舎からピオ神父を訪ねて来ているが、そのとき、「将来あなたは白い衣を着ることになる」と予言されている。つまり、ローマ法王になると言われたのだ。イタリア人以外がローマ法王になることなど、すでに四世紀にわたってなかったので、さすがにボイティワも驚いたに違いない。しかし以後、彼はしばしばピオ神父に祈りの依頼の手紙を送った。それを受け取った神父は、「この人の頼みは聞かないわけにいかない」とつぶやいたという。お陰でボイティワの周囲では数多くの奇跡が起きたので、後に彼が教皇になってから、ピオ神父の列福・列聖調査はスムーズに進んだのだった。
 池田家の長女・智香ちゃんは、顔が父親(梅沢富美男)にそっくりだ。最近、予備校の模試で総合一位をとったという彼女は、飛行機のなかでも勉強に余念がない。図形の問題を教えてほしいというので、久しぶりに中学の入試問題を解いたが、結構難しい。こんなものを、小学校5年の女の子が解いているのかと思うと、そのことのほうが奇跡のように思えてきた。
 夜、ローマのホテルに着くと、お腹がすいてきた。何人かの方と添乗員の下江さん(『大いなる生命と心のたび』旅日記を参照)を誘って、カップヌードル・パーティーを開く。こんなときのカップヌードルは、実に美味い。

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聖者の世界 3

 二十世紀の聖痕者として有名なピオ神父であるが、しかし、彼の奇跡を調べていくとそれがほとんど無尽蔵であることが分かる。
 たとえば、彼は同時に数カ所に現われて信者の病を癒し、訪れてくる人の心を読み、本人すらも忘れている過去を指摘した。死者の訪問をしばしば受け、彼らに乞われてミサを立てた。
 習ったことのない外国語の手紙が読める理由を問われて、神父は、「守護の天使が教えてくれるから」と答えている。彼はまた、聖母マリアやイエスと普通に話し、大人になるまで、通常の人間がイエスやマリアと話せないことを知らなかった。神父が話すイタリア語は、訪れてきた信者にはその母国語で聞こえたりもした。
 出発の日は迫ってきたが、調べれば調べるほど、膨大な量の情報が湧いてくる。その上、例によって野暮用が片づかない。
 夜中の10時頃、やっと旅の支度に取りかかる。少し寝たほうがいいと思って、仮眠をとり、朝の4時におきてまた準備。
 車は8時に迎えに来るが、しかし、ピオ神父に関するビデオを見始めた僕は、画面の前を離れることができなかった。車を待たせ、これ以上遅れたら遅刻するという時になってやっと、一大決心をしてテレビを消したのだった。

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聖者の世界 2

 旅の参加者は、必ずしも全員がピオ神父に詳しいわけではない。そこで僕が調べようと思い立ったのだが、調べれば調べるほど、キリスト教世界にもこれほどの聖者がいたかという感を新たにする。
 神父を有名にしてしまったのは、なんと言ってもその「聖痕」である。彼は三十を過ぎた頃、両手、両足、脇腹に、ちょうど磔になったイエスと同じような傷を受け、以後、生涯の終わりまで血を流し続けた。その傷は化膿することも感染症にかかることもなかったが、いかなる方法によっても治癒させることができず、新鮮な血液を流し続けた。
 これを検査した多くの医師のなかには、掌の傷が表から裏に貫通しているのを確かめた者もいる。そうして神父は、常に、この傷による激痛にさいなまれ続けたのだった。

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聖者の世界 1

 1999年5月2日、一人のカトリック司祭が「福者」の列に加えられた。福者とは、聖人になる前の段階の賢人のことである。
 この日行なわれる列福式のため、法王庁はサン・ピエトロ広場に三万席を用意したが、訪れた巡礼者はそれをはるかに上回り、三十万人を超えた。そうして今年の6月16日、同じ人物が今度は聖人の列に加えられたが、その際にもまったく同じことが繰り返されたのだった。この新しい聖者の名をピオ神父という。
 ライトフィールドの池田社長がピオ神父の聖地に行くと言い出したのは、他でもない、都合により、今年のルルドツアーに参加できなかったからである。
 年に一度はキリスト教の聖地を訪れないと気が済まないという彼女は、躊躇うことなく、ピオ神父の聖地サン・ジョバンニ・ロトンドを今回の巡礼地に選んだ。ピオ神父が列聖されたからではない。彼女は昔から、この神父の許を訪れたいと願っていたのだ。
 こうして、彼女とお嬢ちゃん、御主人がいつも一緒に仕事をしている前川清さんの奥さまとお嬢ちゃん、以前に僕がラジオの番組をやっていた小林克也さんの奥さまらと一緒の、珍しい旅が実現した。

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第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 八日目

 成田に向かう飛行機の中、ほぼ全員がぐっすり眠っている。今回は、ルルド・ファティマという聖母出現の二大聖地が入ったので、移動も多かった。添乗員の下江さんを飲みに誘う剛の者も、今回はいない。
 前の座席に「ルルドの母」こと斉藤さんがいる。実は彼女、旅行の後半で声が枯れ、コホコホ咳をするようになっていた。
「まさか、僕がうつしたんじゃないですよね!」
 と言うと、斉藤さんは言った。
「私、先生の代りに咳が出てもいいと思ってまして……」
 それは冗談だった……のだろうか。もしかしたら、彼女はルルドで本当にそう祈ったのかもしれない。それほど、出発のときの僕は悲惨だった。行きの飛行機のなかで早速“手当て”治療をしてくださった方もおられれば、周囲の人たちも一緒に祈ってくださった。
 そういう人たちに支えられて、この旅行が今、終わろうとしている。そんなことを十分に自覚することなく、調子に乗ってただ、しゃべり続けた僕は本当の馬鹿なのか……。ただ、仮に咳で苦み続けたとしても、やはり僕は今回の旅行でルルドとファティマの聖母に感謝したに違いない。
 成田に着くと、この皆さんはそんなことはおくびにも出さず、「お世話になりました」などと言って去って行かれる。また一つ、夢のような旅行が終わって、胸の苦しくなるときが来た。これからしばらくは、出発のときとは違った意味の、ちょうど恋人と別れたときのような胸の苦しさを、僕が感じなければならない時間なのだ。
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第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 七日目

 午前中、ポルトガルの「谷間の真珠」といわれるオビドスを観光。バスのなかでは、ポルトガル人と結婚したという現地の日本人ガイドさんが、ポルトガルの生活事情などを説明してくれる。
 今回の旅行は、これまでのどの旅行にも増してバス移動が多かった。オルリー空港とシャルル・ド・ゴール空港(約1時間×2)、ポー空港とルルド(約1時間×2)、ルルドとベタラン(1時間弱×2)、リスボンとファティマ(1時間半×2)。気がついてみると、そのほとんどをしゃべり通し、二日目以降はほとんど普通に話すことができていた。自分だけにわかることだが、それはまったく考えられないことだった。もちろん、そんなふうにして話した内容が皆さんの役に立ったかどうかは別なのだが……。
 美しいポルトガルの風景を見ながら、不思議の感に打たれる。これを「奇跡」と呼ぶことは差し控えたい。でも、「奇跡的」だったことはたしかだ……。
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第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 六日目

 朝、6時半前に行ってみると、すでに何人かの人がバジリカ前で待っていた。
 ミサが始まり、司祭の説教になって驚いた。壇上から「どこから来られました?」と語りかけられたのだ。慌てて「Japan」と答えたが、こんなことは日本ではあり得ない。ましてここは、世界的に有名な大聖堂なのだ。
 ミサが終わってから、僕はどうしたわけだか、この神父の許を訪ねたくなってしまった。普通、そんなことは決してしないが、香部屋(司祭の控室)に勝手に入り、祭服姿の神父に話しかける。すると神父は「お〜〜!よく来ました」と言って手を握りしめてくれた。
 現ローマ法王と同じポーランド人である彼は、19歳のとき、神学生として、原爆で亡くなった日本人の話を聞いた。ナガイタカシ(永井隆)という人で、「神の恩寵にすべてを捧げる」と言って亡くなった。
「それは、こんな日本語でした。●×$▲&■……」
 意味が分からない。正しい日本語かどうかと言うので、違うと答えた。すると、「ワタシ、コノ日本語、30年間、覚エテキマシタ。ワタシ、騙サレテマシタ」
 そう言って、神父は悪戯っぽい笑みを浮かべた。ちょっとしたキャラだ。いずれにせよ、彼はそれ以来、尊敬してきた日本人には一度会ったきりで、今日が十何年ぶりだというのである。
 巡礼の皆さんに会いたいと言って出てきた神父は、言った。
「ファティマの聖母は平和の元后(女王)ですが、皆さんは平和の使徒です。この巡礼の旅が充実して、日本に帰ってからも幸せでありますように、祈っています」
 そうして、覚えたばかりの「アリガト、サヨナラ」を繰り返しながら、去っていった。
 後で分かったことが一つ。参加者の一人は、この神父と自分たちとは何かのつながりがあることを直観したという。それが正しいなら、どうかこの神父さんを連れ出してくださいと、彼女は密かに祈った。そんなこととも知らぬ僕が、のこのこ神父を連れ出してきたとき、彼女は驚いて声が出なかったという。
 その後、ファティマの聖域を巡礼し、聖母出現の歴史を示す蝋人形館を見学した。残った時間で買い物。聖母が現われた場所の土付きロザリオを買う。
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第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 五日目

 ピレネー山嶺・フランス側のルルドから直接ファティマに向かおうとすると、バスで二日の行程。それは無理だから、一旦飛行機でパリに戻り、それから引き返してポルトガルのリスボン、そしてバスでファティマに向かう。
 ルルドにカール大帝の物語があったように、ファティマもまた、キリスト教とイスラム教の戦いの舞台となった。その犠牲となって死んだ王女の名をこの地はもらい、聖母に捧げられたのだ(『最後の奇跡』208頁「ファティマ姫の物語」)。
 夜、ホテルに着くと、そこはもう聖域のすぐ前。たまたま、十時からロウソク行列があると聞き、行ってみる。ご出現のあった場所に建てられた小さなチャペルの前でたくさんの人がロウソクを手に持ち、祈りを捧げていた。数はルルドに及ばない。が、祈る姿は、それとは関係なく美しい。
 翌朝、6時半にバジリカ(大聖堂)のほうでミサがあることを確認して、眠りにつく。
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第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 四日目

 この日の早朝ミサに、Aさんをお連れする。この方も、カトリックの洗礼を受けながら、三十年ほどの間、教会から離れておられた。これで、事実上の初聖体が、ツアー中に二件もあったことになる。
 ところで、前回までの旅で一番たくさんあった要望は、もっとルルドに長くいたかったというものだった。実際、そのために、一旦パリに戻りながら、日帰りでルルドに行った方もおられる。その方は、今回もルルドに来て、一泊だけしてすでに日本に帰られた。間違いなく、彼女はこの地に縁の深い方であるに違いない。
 そういうわけで、今回は少し無理をしてでも初日のうちにルルド入りし、まるまる3日間を過ごすことにした。そのお陰で、この日の午前は、ルルド近郊、ベタラムの鍾乳洞を見に行くことができた。
 フランス屈指の鍾乳洞とのことだが、果して掛け声倒れということはないのか……。その不安はまったくの杞憂に終わった。洞窟に足を踏み入れるや、目の前に広がる空間に、皆、溜め息を洩らす。さらにどんどん下に降りていくが、自然の造形、まさにここに極まれり! 添乗員の下江さんは、興奮して冗談を連発する。
 下のほうには池があり、そこを舟で渡る。そうして最後にトロッコに乗り、インディ・ジョーンズ気分を味わって鍾乳洞ツアーが終わった。
 この日、数人の有志が集まり、世界の平和と旅の仲間全員の幸せを祈るロウソクを立てることにした。
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第六回 〜ルルド・ファティマ・リスボン〜 三日目

 この日の朝、早朝ミサにSさんをお連れする。彼女は、幼児洗礼を受けながら、さまざまな事情でこれまで教会に行くことができなかった。三十数年後のミサ、そして初聖体(聖変化されたパン=キリストの体を、初めていただくこと。『最後の奇跡』88頁を参照してください)。そのとき、本人は聖母像の左横から射した強い光に圧倒され、心臓が激しく高鳴ったという。
 午後、皆さんをルルドの城砦にお連れするまでは喉を温存しなければならない。が、知った顔に会うと、つい和んでいろんな話をしてしまう。皆さんはもう水浴も済ませ、晴々とした顔をしておられる。
 午前と午後、うまい具合に水浴をすることができた。ルルドの水も、“がぶ飲み”できるのはここでの贅沢だ。そして夕方、皆さんを城砦にお連れした。
 ここは八世紀に、キリスト教徒のカール大帝とイスラム軍との間で激しい戦いがあった場所だ。大帝の腹心であったピュイの大司教は、窮地に立ったイスラムの王に対し、一つの提案をする。それは、カール大帝に降伏する代りに、聖母マリアに城を明け渡すというものだった。王はこれを呑み、以来、このルルドの地は聖母に捧げられた。そうして人びとの敬虔な祈りが捧げられること千年、この地にマリアが出現することとなる。
 ここまで一気に説明をして気がついた。声が出ている。いったいどうしたことなのか……。
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