愛煙家 4


 かつて、名優ユル・ブリンナーは、自らテレビCMに出演してこう言った。
「若者たちよ。もし、諸君が私のようなつらい思いをしたくないなら、もしも人生の途上で、これからというところで命を絶たれたくないならば、タバコを吸うな!」
 彼はどんなに無念であったろう。俳優として、地位を築いた。富も得た。愛する家族もいる。これから人生を楽しもうというその段になって、痛みや吐き気に苛まれながら死んでいかなくてはならないのだから。このとき、”Don’t smoke!!”と言った彼の断固とした口調を、ぼくは留学中のアメリカで見たまま、いまだに忘れることができない。
 だが、この血を吐くような言葉を聞いても、誰になんと言われても、タバコ吸いはタバコを吸う。時々刻々、大量のガン細胞を生み出し、自らDNAを損傷し、他人にも迷惑をかけながら。
 ……というわけで、ぼくは常々思っていた。本当は分かっているくせに、周囲に迷惑をかけて省みないタバコ吸いがガンになっても、ぼくが同情することはないだろうと。同情なんかするもんかと。


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