聖者の世界 6


 この日は、いよいよサン・ジョバンニ・ロトンドの巡礼。ガイドに連れられて聖地に足を踏み入れるが、とりあえずは土産物屋が目立つ。その点はどこの聖地も同じだ。
 生前の神父の遺品などが展示されている教会には、運よくすんなり入ることができた。長いときは、教会に入るのに1時間、2時間と列をなすのだという。今はバカンスのシーズンなので、イタリア人もあまり巡礼には来ないのだそうだ。
 ピオ神父の使った布。洗濯しても、血がとりきれない。かつては、この聖なる布を密かに持ち出し、小さく切って売った商売人たちがいたという。
 大きな壁一面に納められた無数の手紙は、たった一年の間に神父が受け取ったものである。神父は手足の激痛に耐えながら、これに返事を書き、ときには本人の知らないことや忘れていることを指摘した。
 その貴重な手紙のすべてを、法王庁は、あるとき焼却処分にするよう命令を下す。ピオ神父の現象を、悪魔憑きだとしたのである。理不尽な命令にカプチン会は黙々と従い、こうして膨大な量の手紙が失われた。
 その代り、ではないが、現在も、われわれは神父に手紙を出すことができる。日本から持ってきた何通かの手紙を、僕はここのポストに入れた。


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