聖者の世界 5


 ピオ神父がその生涯の半世紀を過ごしたサン・ジョバンニ・ロトンドに向けて、バスは出発した。が、その途中で、われわれは二つの聖地に寄ることにした。一つは、ランチャーノ。かつて八世紀、この地の司祭が、聖変化されたキリストの体(聖体:『最後の奇跡』87ページをご参照ください)が本当にキリストの体かどうかを疑った。その瞬間、ペラペラのウェハースは血のしたたる肉となり、仰天した司祭はその前にひれ伏したという。この肉は銀の容器に納められ、千数百年を経た今も腐敗していない。
 近年の分析によれば、これが人間の肉であること、心筋と心内膜、神経組織を含むこと、血液型はAB型であること等が判明した。ただ、なぜこの肉が腐敗しないのかについては謎のままだ。
 この肉片を管理するフランシスコ会の修道士は、われわれに、特によく見える裏面から観察することを許してくれた。ごく近くで見ると、たしかに肉片が生々しい。
 奇跡の聖体を見たわれわれは、次に聖なる天使の山を訪れる。聖体の奇跡よりもさらに前の時代、四世紀に大天使聖ミカエルがこの山に降り立ち、啓示を与えた。現在では洞窟の中に天使の像が立ち、ローマ法王もこの地を巡礼している。
 そのような説明をバスの中でさんざんしたのに、いざバスが現地に着くと、添乗員の下江さんは言った。「では、トイレ休憩を15分ほどとって、出発しま〜す」
 彼はこの場所のことをまったく知らなかったようだ。現地の人に聞いてなんとか洞窟にたどり着いたが、中は聞きしにまさる聖地。神聖な雰囲気が充満して息が止まりそうになる。逆に、下江さんは恥じ入ることしきり。


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