高校教師 4


 僕が高校の先生になりたかろうがそうでなかろうが、そんなことは相手には関係のない話だった。しかし、とにかく続けるしかない。
「昔から……、国語の問題……、苦手でした。英語や数学なら、答えがはっきり決まってるのに、国語ときたら漠然としていて決まらないんですから……」
 すると彼女は、妖しい笑みを洩らして言ったのだ。
「国語の問題も、答えははっきり決まっています」
「……」
 ショックだった。そうだったのか……。読む人が読めば、あれって答えは決まってるのか……。だが、ここで引くわけにはいかなかった。
「それが、ある作家の方が、作品を高校の問題に使われたそうです。でも、自分で解こうとしても解けなかった……」
「そうですか。それは、生徒が聞けば力づけられます。で……、その作家の方ってどなたですか?」
 そう言われて、ハタと困った。とりあえず、その作家とは自分のことなのだ。一瞬ひるみつつも、僕は言った。
「その方の名刺を持ってますから、差し上げましょう」
 僕が自分の名刺を出すと、しかし、彼女は意外な反応に出たのだった。
「ああ、青山さん。知ってますよ。よく話題に出ます」
(……)
 何と言って切り返していいのか、分からなかった。果して、彼女の言っていることは本当なのか。だって、本人が目の前にいるのに、全然気づいてないじゃないか!
 横浜が近づき、彼女は席を立とうとしていた。最後のわずかな時間に、僕は、ちょっと悪戯心を起こして言った。
「ここにメールなさったら、あの方、返信されると思いますよ」
 本当にメールが来たら、困ってしまう……。言ってしまってからそう思った。が、案の定メールは来なくて、ちょっとホッとしているところである。


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