高校教師 3


 仕事で横浜に行く用事があり、東海道線に乗っていたら、4人がけの席の前に女性が乗ってこられた。50がらみと思われるが、人生の年輪が表情に表れて品のある方だ。ふと気づくと、取り出されたものは「総合問題詳解うんぬん……」。採点した生徒の答案をチェックしているようだった。
 今、目の前に憧れの「高校教師」がいる。そして科目は……国語だった。
 高校で国語を教えるというのが、どんな気分がするものなのか、一度当事者から聞いてみたかった。が、こんなとき、普通日本人は話しかけるということをしない。アメリカでは簡単にそれは行なわれるが……。
 彼女は品川から乗ってきて、どこまで行くかは分からない。いずれにしても、あまり時間がない。
(マリア様、力をお与えください……)
 ついにマリア様を引っ張りだしたとき、ふと、彼女と目があった(ように思った)。その瞬間、僕は口を開いていた。
「あの……、大変失礼なんですが、もしかして高校の先生でらっしゃいますか?」
 相手は微かな笑みを浮かべている。が、明らかに困惑もしている。そうだろう。こんなふうにして話しかけてくる人なんて、普通いない。
 それでも僕は続けた。いや、続ける他なかったのだ。
「実は僕、昔から高校で国語を教えたくって……」


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