宗研18


洗練されたファッションや香水のイメージの色濃いフランスも、
もっとも主要な産業は農業であることを、中学の地理で習った。
実際、ひとたびバスでパリを出ると、
見渡すかぎり農地が続く……という風景に出会う。
それでも、そのところどころにコンクリートの丸い建造物群があり、
それは原子力発電所なのであった。
フランスの電力の原子力依存度は、おそらく世界一だ。
フランスのルルドで聖母を見た少女ベルナデッタの父親の職業も、
粉ひき職人であった。
ところが彼は、左目を失明して職を失い、
小麦粉を盗んだと濡れ衣を着せられ投獄されている。
一家は路頭に迷い、
監獄としてすら使われなくなった一室を借りて住むことになった。
ベルナデッタ自身もコレラにかかり、
栄養失調も重なって病弱で、愚鈍といわれた。
聖母がご出現になったのは、そんな時期だった。
偉大な出来事が起きる前、
自然界が大きな試練を与えることはよくある。
来るべき時に備えて、
その人のカルマを一掃するがごとくである。
宗研の映写会で初めてルルドの話を聞いたとき、
いちばん心に残ったのは……


ルルドで、今日も奇跡的な治癒が続いている、ということではなかった。
たとえ肉体の治癒が得られなくても、
人びとは心を癒されてルルドを後にする、ということのほうが印象深かった。
そう言われたときの神父の声色、口調まで、
いまだにありありと思い出されるのはどうしたことか。
そして、あのとき、あの場所に一緒にいた同級生たちのことも、
思い出すことができる。
ルルドで泉の水に浸かったときの清新さは、言葉で表現できない。
特別な宗教や信仰をお持ちでない方のほうがツアーにはたくさん来られるが、
その皆さんも、
「こんな経験ができるとは、思いもよりませんでした」と、
顔を輝かせて言われる。
あるいは、ルルドの雰囲気や、
人びとの真摯な祈りの姿に打たれて、涙を流される。
あの場所に行って、人生に何の変化もなく帰って来ることは、
ほとんど不可能に近い。


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