オジサン


 年末年始を一人で過ごすことに決めた僕は、久方ぶりに買い物に出かけた。不況とはいえ年末の夕暮れ時、近くのT急ストアはお客さんで賑わっている。これから先、この国の経済がどうなっていくのかは分からないが……。
 ふと、入り口近くに置いてあった「煎餅」に目が止まる。煎餅といっても、魚の小片をあげ、味付けしたお菓子。「イワシ」「キス」「タイ」の三種類があったので、「タイ」を選んで買い物籠へ。そのとき、目の前にいた男がふいに声をかけてきた。
「それ、美味しくないんですよね……」
 そういえば、さっきから視線を感じてはいたのだ。だが、人がスーパーで買い物してるのを見て、「それは美味しくない」などというこのオヤジは一体何者? まじまじと彼を見て私はさらに驚いた。T急ストアの名札をつけているではないか。
「それ、評判悪いんですよね。味が効き過ぎてるんです」
 この奇特な店員を、私はどう評価したらよいというのだろう。正直者というか何というか……。しかしこのおじさん、ここにじっとこうしていて、客に「これ買うな」と言い続けているのだろうか。だったら、品物自体を置くな……。そう思ったとき、彼自身が言った。
「品物を置かなきゃいいんですけどね……」
 そう言って、彼は勇躍、去っていった。僕は、その後ろ姿を見送ると、買いかけた「タイ煎餅」を元の場所に戻したのだった。


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