先輩 4


 今にして思えば、それは典型的な「離岸流」だった。
 離岸流は、以下のような条件下で発生する:
1)海岸が太平洋や日本海等、外洋に面している
2)遠浅で、海岸線が長い
3)波が海岸に対して直角に入っている
 だが、われわれにはそのような知識も、意識もなかった。
大波は、次々と打ち寄せてきた。その度、体は大きく宙に浮く。が、波が去ると、まるでジェットコースターのように奈落の底に落ちていく。一番下では、なんと足に砂が触れていた。
「足が着く!」「足が着くっ!」
 一学年上の水泳部の先輩が、そう言って励ましてくれた。が、すぐに次の大波が来る。波の頂点から下を見ると、そこは真っ黒で何も見えなかった。そうしてまた、体は岸からはるかに遠ざかっている。
 昔読んだ芥川龍之介の『蜘蛛の糸』には、血の池地獄で罪人たちが浮いたり沈んだりしているのが見えた……という記述があった。今まさに、自分がその状況に陥っていた。


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