学会 3


出番を終え、早く帰って仕事でもしようと思って会場を後にした私の目の前に現れたのは、開業医のE医師だった。
E医師は、私の講演を的確に論評してくれたので、正直、ほっとした。講演後、会場が静まり返っていたので、もしかしてまったく理解されなかったのかと心配していたのだった。
「実在に関するベルの定理」と「サーンキヤ哲学」の関係を10分で話せといわれてももともと無理な話ではあったが、E医師はさすがに本質的な部分を捉えていた。
これでやや気が楽になった私は、ご一緒にお昼でも……と誘われるまま、近くの中華料理屋に入ってしまったのだった。
 何事にも鋭いE医師は、いわば現代医学の反逆児である。アトピー性皮膚炎のご専門だが、飲み薬、塗り薬、張り薬、一切使わない。漢方薬すら使わない。
「漢方もですか……??」
絶句する私に、彼は、
「患者自身が本来、最高の医者です。われわれは、それをちょっと手助けするだけです」
と、当然のことのように言われた。たしかにそれはそうなのだが、その理念を実践に移せる医者はほとんどいない。それで彼は、宣伝も、何もしないのだという。


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