天災


年末も押し迫った12月29日、夜の10時近くであったろうか、突然一本の電話がかかってきた。
「谷奥です……」
いつも柔らかな物腰で、謙虚なその声に、この日は心なしか元気がなかった。
「実は、これからスリ・ランカに行ってきます」
大陸旅遊の谷奥社長とは、すでに二年越しのプロジェクトが進んでいた。スリ・ランカで仏教やヒンドゥ教の壮大な遺跡を訪ね、全員がアーユルヴェーダのマッサージを体験し、象の孤児院で授乳や水浴びの様子を見、なおかつスリ・ランカの絶品料理を堪能する、という旅行を計画していたのである。
彼はそのためにあらゆる情報を仕入れ、サービスで世界一のシンガポール航空の席を確保し、おまけにシンガポールでの乗り継ぎ時間ではクルージングまで楽しめるようにして手配してくれていた。
(完璧だ……)確信をもって、旅行のご案内をホームページにアップした。そんなとき、スマトラ沖地震がやって来た。


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