古巣 1


 しばらく……といってもほとんど一年間、エッセーをお休みした。その間に書いたこともあったのだが、中途半端な感じがして掲載しなかった。変化はいつも突然で、驚きに満ち、簡単には書けなかった。
 ここ数カ月の間に本格的に再開した科学研究のため、久しぶりに古巣の研究室に顔を出した。かつては理学系研究科相関理化学専門過程といっていたのだが、今は名称が変わって総合文化研究科とかいうらしい。昔の先生についても、いろんな懐かしい話を聞いた。
 当時の指導教官は、その後、学部長になったのに研究をあきらめず(普通は研究をやめるもの)文部省の化学研究費を3億円ほど当てた。そうして、長年温めていた「準安定励起状態原子衝突を応用した顕微鏡」というのを世界で初めて開発し、Natureに論文を載せたという。
 NatureとかScienceといった雑誌に論文が載るというのは、科学者としての栄誉といってよい。昔のぼくの論文は、Journal of Physical Chemistryのような雑誌に載せていたが、「ぼくも雑誌にいくつか論文が載りました」「え、どんな雑誌です?」「たとえば、ヤング・ジャンプとか少年マガジンとか……」と言ったら大いにウケたりした。


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