第四回 〜パリ・ヌヴェール・ローマ・アッシジ〜 五日目


 13世紀初頭、カトリック教会がかつてないほどの世俗的権力に浸っていた時期、一人の男が出家した。着ていたものを両親に返し、文字通りの裸となって修道生活に入ったこの人を、後に、世界中の人びとが宗教を超えて賛嘆することとなる。このアッシジのフランシスコを訪ねるのが、今回の旅の目的の一つである。
 ローマから北東へ 180キロ、アッシジの村へ向かうバスのなかで、フランシスコの生涯を簡単に復習する。1181年(82年ともいわれる)生まれ。20歳で戦争に行って捕虜になるが、その頃から、「今に全世界がぼくの前にひざまづき、祈りを捧げるようになる」と言って周囲を驚かせていたらしい。だが、なぜそうなるのか明確なことは、この時期、本人にもまだ分からなかったに違いない。
 24歳のとき朽ち果てたサンダミアノ教会の十字架像がフランシスコに語りかける。「私の家を再建してほしい」。そうして彼が修道生活に入るや、堕落し切った教会に辟易していた若者たちは競ってその許に集まり、修道会はまたたく間に五千人ほどの大所帯に膨れ上がったといわれる。
 清貧のなかで布教、ハンセン氏病患者の救済などの事業にあたったフランシスコは、晩年、聖痕を受け、その修道衣は血でぐっしょり濡れたといわれる。ほとんど失明し、体も衰弱したが、彼は最後まで神を讃美しつづけて亡くなった。その頃、肉体的にもっとも苦しい時期に詠んだ歌が、有名な『太陽の歌』である。太陽の歌は、後に映画『ブラザーサン・シスタームーン』のなかで、ドノバンにより美しく歌われる。
「神よ、造られたすべてのものによって
  わたしはあなたを讃美します。
 わたしたちの兄弟、太陽によって
  あなたを讃美します。
 太陽は光をもってわたしたちを照らし
  その輝きはあなたの姿を現します。
 わたしたちの姉妹・月と星によって
  あなたを讃美します。
 月と星はあなたのけだかさを受けています。
 わたしたちの兄弟、風によって
  あなたを賛美します。
 風はいのちのあるものを支えます。
 わたしたちの姉妹、水によって
  あなたを賛美します。
 水はわたしたちを清め、力づけます。
 わたしたちの兄弟、火によって
  あなたを賛美します。
 火はわたしたちを暖め、よろこばせます。
 わたしたちの姉妹、母なる大地によって
  賛美します。
 大地は草や木を育て、みのらせます。
 神よ、あなたの愛のためにゆるし合い
  病と苦しみを耐え忍ぶ者によって
   わたしはあなたを賛美します。
 終わりまで安らかに耐え抜く者は
  あなたから永遠の冠を受けます。
 わたしたちの姉妹、体の死によって
  あなたを賛美します。
 この世に生を受けたものは
  この姉妹から逃れることはできません。
 大罪のうちに死ぬ人は不幸な者です。
 神よ、あなたの尊いみ旨を
  果たして死ぬ人は幸いな者です。
 第二の死は、かれを損なうことはありません。
 神よ、造られたすべてのものによって
  わたしは深くへりくだって
   あなたを賛美し、感謝します。」
 中世をそのまま伝えるアッシジの街は、美しい山の中腹にあった。母親は天使の御告げを受け、裕福だったにもかかわらずフランシスコは馬小屋で生まれた。フランシスコを慕い、やはり清貧の徳に生きた聖女クララの創始した修道院、「私の教会を再建しなさい」と語りかけ、生涯の決断をさせた十字架のキリスト、そしてフランシスコを記念して建てられた聖フランシスコ大聖堂等を次々廻る。
 圧巻は、聖堂内のジオットの壁画。有名な「小鳥に説教する聖フランシスコ」を、フランシスコ会の司祭が素朴な口調で解説してくださった。
 壁画の隅には、聖女クララの慎ましやかな姿もある。フランシスコよりも誰よりも、このクララが好きだと言って、なかなかその前を離れようとしない下江さん。「観音様だ……」と言って絶句している。彼はこのクララに再会するため、特別なネクタイをしてきたという。
 ところで、私たちのために聖堂内を案内してくださったこの神父様は、30年間奄美のフランシスコ会にいた後、こちらに赴任なされた由。なんと、今回参加のMさんのお父さまの同級生であられることが判明してしまった。Mさんのお父さまは、この神父様からカトリック要理を教わり、洗礼を受けられたのだ。
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聖人の死後建てられた、
聖フランシスコ教会(アッシジ)
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城門から見た
アッシジ村の風景
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聖フランシスコ教会前の
クリスマス風景
(ただし蝋人形です!)


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