マダムと肋骨 4


長期の夏休みが終わり、医院は患者でごった返していた。
夕方、私の番が来るまでには医師は疲れ切っていそうだったので、私は、
「先生、さぞやお疲れでしょう」と、
二週間になんなんとする夏休みをとったばかりの医師に声をかけた。
現状を切り出すのにはいささか躊躇せざるを得なかったが、
しかしそのために来たのである。なんとか気力を振り絞り、
「実はまだ、胸が痛いんですけど……」
と切り出すと、案の定、医師は意外そうな目で私を見た。
「え……? もう3カ月近くになりますがねぇ……」
「ええ、でもまだ、痛むんです」
そう言うと、医師は私の胸を触ったり、深呼吸させたりしていたが、
「あの……レントゲン、撮らせてもらっていいですか?」
と、申し訳なさそうに言った。
前回、被爆を恐れて、私がこれを延期してもらったからだ。
しかし、今回はそうも言っていられない。
レントゲンが撮れてきて、
目の前にかざしてみると、医師は思わず、
「アレ……アレアレアレ〜〜〜」と声を出した。
以前、きれいに折れていたその部分は、
画像としてはモヤモヤしてよく分からない状態になっていて、
まだつながっていないことが素人目にも見てとれた。
やはり、いろいろ出歩いたのがよくなかったのか……。
しかし、医師が声をあげたのは……


それが原因ではなかった。
「もう一カ所……、折れてますね」
「え……???」
そう言って、医師はフイルム上の別の箇所を指さした。
「ホラ、ここも折れてる……」
「ホラ」とか言われても……、私は声も出なかった。


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