五輪 4


野口選手、土佐選手の場合は、
ほとんどの日本人が同情しているからまだいいといえるかもしれない。
同じ棄権も、
男子110メートルハードルの劉翔選手にはさらに厳しいものだった。
前回アテネで、東洋人で初めて陸上短距離で優勝した、中国の国民的英雄。
CMを含めた年収10億は、平均的な中国人数千年分の稼ぎに相当する。
今回、祖国中国でオリンピックが開催されるのは、
まさに劉翔のためとまでいわれた。
しかし、どんなことがあっても勝たなければならなかった英雄は、
結局レースを行なうことができなかった。
この事態に、中国国民は態度を一変させた。
われわれは子供のころから「人の評判なんか気にしない!」などと、
常に正しい学校の先生から言われてきた。
しかし、そのようなふりはできても、
人びとの評判を本当に気にしないということは、
悟りを啓く前の人間にはできない。
国家のためにと思いベストを尽くしながらなお、
国民的な誹謗・中傷を浴びた同選手の心の傷が真に癒えることもまた、
今回の人生の間にはないだろう。
人生を生まれ変わって忘れたと思っても、本当に忘れられるはずはなく、
その印象や記憶は、次の、そしてそのまた次の人生に
影響を与えないではいられないだろう。
しかしそのようにしながらも……


生命は徐々に進化していく。
失敗をするのは誰にとっても怖い。
が、しかしそれでもわれわれは、勇気をもって生きていくほかはない。


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