第十三回 〜二千年の聖都への大巡礼 サンティアゴ・デ・コンポステーラ〜 八日目


8世紀、海に面した美しいこの地に西ゴート王ロドリゴがやってきた。そのとき、イエスが暮らした地ナザレからきた聖母像を携えていたことから、この地もナザレと呼ばれるようになった。像は4世紀の作で、ポルトガル最古の聖母像だ。
12世紀、一人の城主が悪魔に惑わされて崖から転落しそうになったとき、聖母が現れ命を救うという奇跡があった。その後、これを記念する礼拝堂にはナザレの聖母像が安置され、王たちがしばしば祈願に訪れた。バスコ・ダ・ガマもインド航路を発見する前、ここに来て祈ったという。後には、さらに壮麗な聖堂も建てられた。
これらもさることながら、丘の上から、そしてレストランから見たナザレの海はあまりに美しく、私は心のなかでつぶやいた。
「あの海に入れたらよかったのに……」
私は旅行に出るとき、しばしば意味もなく、水着をスーツケースに入れる。どこで泳ぐ機会があるか分からないからだ。だが、今回はさすがに水着はなかった。
大西洋の海産物で盛り沢山の昼食をいただいた後、とりあえず私はズボンの裾をたくし上げ、海辺に立った。大西洋の荒波も、海岸まで届くと微かな波だ。ちょうど波が届くか届かないかという場所に立ち、皆さんと記念撮影をし、冗談を言い合う。そうして、波を背にして「そろそろ行きましょう」と言いかけたとき……それまでとは比較にならない大波が、突然われわれを襲った。いや、襲われたのは、波を背にしていた私だけだった。私はすっかり大波に足をすくわれ、全身が海に浸った。
バスに戻り、スーツケースから着替えを取り出していると、下江添乗員がやって来て言った。
「先生、海に入られたのですか?」
入ったといえば入ったのだが、意図的に入ったのではない。余計なことをマリア様に祈ってはならないと身をもって思い知ったが、しかし、かつてのキリスト教の洗礼は体全体を水に浸けたという。15のとき、学校の聖堂で額にわずかな水を垂らして洗礼を受けた私は、いつか全身を水に浸さなければならなかったのかもしれない。そう思うと、聖母が奇跡を起こされた美しいナザレの水に洗われて、私は、なにか一つの業を終えたような気になったのだった。
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ナザレの海
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断崖に立つ礼拝堂
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ここで食事しました
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信じられない事態が・・・・


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