美学 6


いよいよ大山峻護が花道に登場したとき、私はもう何と言っていいか分からなかった。
私は知っていた。彼の体調が万全にはほど遠いことを。左右両目の網膜剥離。手や足の関節の脱臼。それらに加えて、今回、彼は背中を痛めていた。空手界の王者を迎え撃とうというときに、満足な練習ができない。それが彼をどんなに苦しめているか、私には痛いほど分かっていた。
花道を下り、リングを前にして、彼はしばし祈る。勝たせてほしい……というより、力を出し切らせてほしい。そんな祈りだったのではないか。長い、ながい祈りの後にリングに上がった彼は、思い切り、両足で四股を踏んだ。
ところが、続いてリングにサム・グレコが現れたとき、私は愕然とした。あまりに体格が違い過ぎる。身長で11センチ、体重で20キロ。昔、ボクシングをかじっていた頃、ほんのわずかの体重差でもパンチの重みがまったく違うことを、私は体で覚えていた。
しかも相手は、曙のようなブヨブヨした重さではない。鍛え上げた、鋼のような体をしている。


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