沖縄の青年 その5


 途中まで車で行き、そこから歩いた山の中には、“気”が充満しているのが私にも感じられた。男性は、雄大な山と渓谷が一望にできる場所に立ち止まると、突然、祝詞をあげ始めた。神社で教えている正式なものではなく、自分の心から自然に出るもののようだ。5分ほどたったとき、山頂から突然、風が吹いてきた。
「ああ、神さまの風だ……。分かりますか?」
 そう言われたが、私には偶然のようにも思えた。が、私の同行者にとって、それはとても偶然などというものではなかったらしい。彼は明らかに、その気を感じ取ったというのである。
 さらに歩いて、われわれは滝壺にたどり着いた。思わず、ズボンの裾をたくし上げて水のなかに入る。
「大自然は、真心ですね……」
 そんなことをつぶやく男性は、自分は霊能者でもなんでもないという。普通の人間であり、普通に大自然の真心が感じられるというのだ。ところが現代、われわれにはその普通のことができないらしい。
 滝壺の水の冷たさに触れながら、今回の沖縄の旅が終わりに近づいたことを、私は感じていた。


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