学会 7


私は、にわかに緊張に包まれていた。朝は思わず寝過ごし、講演に遅れそうになった。講演時間は急に半分にしてくれと言われ、そうして今、現代の赤髭から、私は食い逃げの共犯を持ちかけられている……。
生唾を飲み込み、私は思わず、ボケットのなかの財布に手をやった。もし、不意にE医師がこれを決行に移したとき、私一人、出遅れたらどうなるのか。
別段焦ることなく、堂々と二人分払って出ればいいと思われるかもしれない。ところがこんな時にかぎって、お金がないのだ。下手をすると、自分の分だって怪しい。
それではということで、クレジットカードで払うと言えば、中華料理屋のオヤジは許してくれるか。
「あんた、ウチみたいな店に入るのに、ほんとにカードで払えると思ったの??」
オヤジは当然、そう言うだろう。あのオヤジ、決して優しそうではなかった。
そんなことを考えている間にも、赤髭はタイミングを計って、今にも立ち上がろうとしていることが伝わってきた。


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