学会 5


「家内も、最初は玉の輿と言われて来たんですがねぇ……」
そう言うE医師の口許に、やや自虐的な笑みが洩れたように見えた。実は奥様は、一番苦しいときには自ら新聞配達をして家計を支えたのだという。
そのような妻を持ったことについて、E医師は多くを語ろうとしなかったが、そこにもやはり多くのドラマがあったであろうことは容易に推察できる。ちょうど、舞台に立つ役者が、女房を質に入れてでも自分の芸を肥やしていくというのと似ているだろうか。
言葉の端々から才気の滲み出るE医師は、続けて言った。
「私、馬鹿なんですよ。……顔はいいんですが」
ここへきて、医療の本来のあり方をめぐって苦闘を続けるE医師の人格が、実は当初、私が思っていたよりもさらに深く、複雑なものであるらしいという至極当然のことに、私はやっと気づき始めていた。


カテゴリー: 人生 パーマリンク

コメントを残す