星宿


 松井稼頭央。イチローの巧さと、ゴジラ松井のダイナミズムを兼ね備えた逸材と讃えられ、今年華々しく米大リーグ・メッツ入りした。年俸7億円強も、イチロー、松井秀喜の活躍がなければあり得なかった。
 ところが、好事魔多し。オープン戦前に指に怪我をし、他にもどこやら体調不良を訴えていた。案の定、オープン戦の打率は1割台。「開幕戦は、初球、ストライクなら絶対振りますよ」などと言っているが、一体どうなることか……と思っていたら、本当に初球・ストライクを強振し、打球はバックスクリーンへ。開幕戦の先頭打者で、メジャー初本塁打を記録したのは、66年ぶりだという。やはり、特別な星の元に生まれてきた人というのは、いるらしい。あるいは、禍福はあざなえる縄のごとしといおうか……。
 アメリカにいた数年の間、大リーグの試合を観たことはなかった。ところが、最近、日本で大リーグ公式戦を見ることになった。ヤンキース対デビルレイズ、日本での開幕第二戦。バックネット裏だった。
 当然、ヤンキース・松井秀喜の打席で、日本のファンは大歓声である。「ホームランッ、ホームランッ、マ・ツ・イッ!」などと騒がれても、そういうわけにもいくまいに……と思いながら見ていたところ、なんと松井は本当にホームランを打ったのだった。瞬きする間の出来事。この日、同点打に続く勝ち越しホームランで、場内は興奮の坩堝と化した。
 日本に凱旋し、とんでもないほどのプレッシャーがかかっただろうに、本人は「自分のやることをやるだけ……」とばかりにホームランを打つ。そういえば、昨年も彼は、ヤンキースタジアムでの初戦で満塁ホームランを放っている。
 そんなことよりも何よりも、ぼくが彼に驚いたのは、「本当に中学二年のときから、人の悪口を言ったことがないの?」と聞かれ、「はい、そのとおりです」と素直に答えられるところだ。どんなホームランや記録より、そのことのほうがこの人は凄い。
040408


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