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青山圭秀エッセイ
最新号(第193号 2026年1月20日配信)より

『宝船』

京は蓮久寺の第38代住職・大雲さん。
ふくよかな人相をしたこの人は、もともとお寺のお生まれだったが、
実家は兄が継いだので、自分は随身(見習い僧)として各地の寺を流浪した。
結婚して子供が生まれ、生活費をアルバイトでぎりぎりやり繰りしていたが、
そのうち電気代、ガス代、水道代も払えなくなってきた。
蓮久寺から住職にならないかと誘われたのはそんなときだった。
しかしこの寺、名うてのボロ寺で、いたるところで雨漏りがし、
壁は崩れて柱は折れ、檀家もほとんどいないという。
それでも大雲さんがこれを二つ返事で引き受けたのは、
住職になれば少なくとも家賃は浮くだろうと思ったからだった。

行ってみれば、現実は甘くなかった。
檀家がいないので定収入はほぼなし、寺内は荒れに荒れ放題。
それでも得意の怪談を説法と結びつけて披露したところ、
寺の雰囲気と奇妙にマッチしてマニアの間で評判となった。
そうこうしながらなんとか食いつないでいた頃、彼は一つの夢を見た。

金槌を右手に、ズダ袋を背中から下げたおやじが寺内を徘徊している。
(泥棒だ!)
咄嗟にそう思ったが、しかしこの寺には盗むようなものがない。
よくよく見ると、どうも大黒様に似ている。
「あの……もしかして大黒さんで?」
声をかけると、おやじは恥ずかしげに、
「うん……せやねん」と関西弁で答えた。
ただ、この寺に大黒様はおられない。
そこで目が覚めてから寺中を探索した結果、
隅のほうからボロボロになった大黒像が出てきたが、
夢で見た大黒様と瓜二つだったので、きれいにして祀ってさしあげた。
思わぬ寄付金が入るなど、寺の財政が好転してきたのはその後のことだ。

そうこうするうち、大雲さんはふたたび夢を見た。
光輝く白雲──まさに大雲──が割れ、雲間から巨大な宝船が降りてくる。
そこには七福神が乗っておられ、帆先に立たれた大黒様が言った。
「お~い、だいう~~ん(大雲)、バラ買うてきてくれへん?」
ふたたび、激しく関西弁だ。
バラ? アクセントからして、薔薇ではなさそうだ。
豚バラのことかと思い肉屋に行くと、店員の兄ちゃんが言った。
「ご住職、肉、食べへんのやろ?」
「へぇ、カミさんに『バラ買うてこい』言われまして……」
「ご苦労でんなぁ。せやけど、奥さんも肉食べへんのとちゃいます?」
「いや……買うてこい言わはったんは、神さんで……」
「住職が食べへんのに、神さんのほうがもっと食べへんやろ」
笑い飛ばされて困惑する住職に、肉屋の兄ちゃんは何気に言った。
「そこ宝くじ売っとるで、バラで買うてみたら? 」
見れば、向かいに宝くじ売り場がある。
閑散とした売り場に行ってみると、おばはんの無愛想な視線が刺さった。
(坊主が宝くじ買うんか?)と、思われているに違いない。
そこは(神さんの言われたことやから……)
と思い定め、バラ200円×10枚を買った。
もらった券面には、夢に出てきたような宝船と七福神が描かれている。
しかし生き残りをかけた日々の喧騒のなか、
そんなことはいつしか忘れてしまっていた。

半年ほど経ったある日、三たび大黒様の夢を見た。
「お~~い、だいう~ん、 金(かね)の実が生(な)ったでぇ。
 はよ取りに行かんと、腐るでぇ……」
「へぇ、承知しましたっ!」
とは答えたものの、なんのことだか分からない。
そのうち知り合いに「ご住職、前に宝くじ買うた言わはりましたな……」
と言われ、半年前に買ったバラ10枚のことを思い出した。
当選番号の見方が分からなかったが、
10枚のうち一枚は200円が当たっているはずだ。
そこで売り場にもっていくと、おばはんがまたこちらをチラと見て、
無愛想に言った。
「当とうてはりますな……」
「……200円でっか?」
「1億5,000万」
「……!」

フジテレビの『奇跡体験アンビリバボー』は、昔たまに観ていたが、
ここ数年は観た憶えがない。
ところが、この正月にやっていた特番がたまたま目に入り、
上記のような話が紹介されていた。
そういえば、夢がもとで寺内にずっと眠っていた神様を住職が見、
思わぬ幸運に与った話を、かつて飛騨山中の聖天様の話としてご紹介したことがある。
https://www.art-sci.jp/meruma/backnumber101#109
また、ボロボロになっていた寺を復興した話は、
昨年も巡礼したインドのムルガ神寺院にそっくりだ。
この寺院を復興した僧侶は、今は生き仏と崇められている。
https://ratnagiri.org/gallery/

「大雲さんの名前を、大黒様が“大運”と読み違えたんちゃう?」
などと意地悪を言う人がいたのかいなかったのか……。
実際、ご住職、こうして得たお金を全額、寺の改修に使われた。
祭壇も、件の大黒様もすっかりおきれいになり、
多くの人が法話を聴いてくれるようにもなった。
「神仏を拝む場を提供させてもろてるんは、ほんまありがたいことですわ」
(家賃が浮く)と思って引き受けたという住職であったが、
その素朴な信心がこうした形となって結実したのだろう。

思えば現在、インドでは4カ所で盛大に寺院を建設中だ。
善男善女らがこれから何百年にもわたって祈り、
若い僧侶らが日々、プージャを捧げ、神々を礼拝する場となる。
これまでもさまざま経験してきたように、
神々が実際におられて、私たちの声を聴いてくださっているのは疑いようがない。
そして神々は、人の真心を正当に評価され、適切なときに応えてくださる。
今年の正月は体調不良に苦しみながらも、
そんな思いで有り難く過ごさせていただいた。