メールマガジン<プレマ通信>

青山圭秀エッセイ  バックナンバー

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最新号 (第114号 2018年4月14日配信)

『蝶の羽ばたき 2』

2017年9月発行プレマレターVol.36のエッセイ『蝶の羽ばたき』では、
1962年秋に勃発したいわゆる「キューバ危機」の際、
さまざまな幸運が重なった結果、偶然、核戦争が回避された様子を述べた。
また、現在7年が経過した福島原発事故でも、
一つ対応を誤れば、大げさでなく、東日本には
二度と人が住めなくなってもおかしくない情況であったことにも触れた。
実際、あのとき、海水の注入を止めるようにという東電本店からの指示に対し、
当時の吉田昌郎所長が「分かりました」と口では答えながら、
実際には注入を続けるよう部下に指示した記録が残っている。
この国を救ったと言っても過言ではない吉田氏は、その後白血病に倒れ、亡くなった。

2月に巡礼したばかりのイスラエルは、
米国大統領がエルサレムを首都と認定してしばらく不安定化していたが、
実際に旅行してそのような不安は一切感じることなく帰国することができた。
不具合は、たとえば、安息日に行き先階のボタンを押すことも仕事として禁じられているので、
一階ごとにエレベータが停止する、といった文化的なことで、
むしろそれくらいでよかったともいえる。

ところが、その隣国のシリア情勢は容易ではない。
この国は、しばらくの間テロ集団である「イスラム国」に蹂躙され、
そのなかで日本人ジャーナリストが命を落とすという痛ましい事件も記憶に新しい。
イスラム国については、先進各国の協調した対応により、おおむね鎮圧された模様だが、
この度、この国では化学兵器が使用されたようだ。
しかもそれは、政府が、反体制派とはいえ自国民に対して行なったとされている。
日本のような平和な国に生まれ育ったわれわれにはピンとこないが、
西側の指導者たちは事態を見過ごそうとはしていない。
反体制派の武装組織だけではなく、女性や子供までも巻き添えになって
多数が死傷したわけだからそれも当然であろうが、現地は凄惨な情況だという。
われわれが映像で見るように体中に水をかけられ、
吸入をさせられている子供たちはまだよいほうで、
そんな処置を受けることなく悶え苦しみ死んでいった子女も多数いるだろう。
問題は、このような非道を繰り返すシリア政府の背後に、ロシアがいるということだ。
というよりも、今やシリアとロシアはほとんど一体であるともいわれる。
実際、「24時間から48時間のうちに重大な決断をすることになるだろう」
という米大統領の警告に対し、
ロシア政府は、「ミサイルを撃つならそのすべてを撃ち落とし」
さらには「ミサイルの発射元をも攻撃する」と宣告した。
それに対し、米大統領は、
「ならば準備しておけ、ロシア、なぜならミサイルが飛んで行くからだ」
などと、ツイッター上で挑発するありさまだ。
そうこうしているうちに当初警告の48時間は過ぎたものの、
今日になってアメリカは軍事行動を決断し、
すでに地中海上に展開している空母打撃群が巡航ミサイルを打ち込んだ模様だ。

自分の人生を振り返るとき、後になって足のすくむ思いがすることがある。
なんと愚かにも、なんという危険を犯し、なんという偶然に助けられたか……
そんな場面がいくつもあった。はっきり言って今回の人生、
すでに何回か死んでいてもおかしくなかったと私は思う。
そしてそれは、国の命運も、世界の歴史も同じなのだ。
真実は常に、後になってから分かる。
そのとき、どのような危機を自分たちがくぐり抜けていたのか、
どのような危機の淵に立たされていたのかを初めて知ることになる。
いや、それらが本当に分かるのは、人生が終わった後なのかもしれないが……。

ロシアは、「シリアへ軍事介入するなら、
それは政府の依頼を受けて駐留しているわが軍が容認できるものではなく、
最悪の結果を招く恐れがある」と警告している。
米大統領も、世界に対してさまざまな脅しをかけ、
“頭の狂った北の王”もまた、そうだ。
実際、今回の予言にはこう書かれていた。
『精神的に正常でない指導者らが、諸国を脅している』−−

そんな予言が正しいと思える時代にわれわれは生きているが、
そうであっても、行なうべきことには変わりがない。
自分に与えられた仕事を誠実に行ない、役割を忠実に果たす。
できれば儀式に与り、祈りを捧げ、瞑想によって深い意識状態を経験する。
苦しんでいる隣人がいれば、可能なかぎり助ける−−。
地球の裏側の蝶の羽ばたきのごとく小さなことのように見えても、
そうしたことの一つひとつが世界全体に肯定的な影響を与えることは、
何もかもが不確実なこの時代にわれわれが知りうる、
間違いのない事実なのである。