メールマガジン<プレマ通信>

青山圭秀エッセイ  バックナンバー

第1号 - 第10号
第11号 - 第20号
第21号 - 第30号
第31号 - 第40号
第41号 - 第50号
第51号 - 第60号
第61号 - 第70号
第71号 - 第80号
第81号 - 第90号
第91号 - 第100号
第101号 - 第110号
第111号 - 第120号
第121号 - 第130号
第131号 - 第140号
第141号 - 第150号
第151号 -

最新号 (第156号 2022年5月1日配信)

『糸』

この世界のすべてを統一的・整合的に理解すること、
それをごく少数の、できればたった一つの方程式で表すこと、
すべての物理学者にとって、これが究極の目標であることは疑いようがない。
 
過去、その夢を実現したと思われたときがあった。
1687年、『Philosophiae Naturalis Principia Mathematica』
(『自然哲学の数学的諸原理(プリンキピア)』)において、
いわゆる「ニュートン力学」が打ち立てられた。
これにより、すでに実験的に示されていた地上の物体の運動と、
観測によって得られていた天体運動のすべてが、統一的に説明された。
ニュートン自らがそのために創始したまったく新しい数学が、微分・積分学である。
これにより、世界のすべてが原理的に説明されたので、
あとはそれを応用していくだけだとほとんどの科学者が考え、200年が経過した。

繰り返し申し上げてきたように、誰も実在をそのまま認識することはできない。
なので、すべての科学理論は「モデル」である。
そのため、200年間信奉されたニュートン力学が刷新されるときも、やはりきた。
20世紀初頭、ほとんど同時期に生まれた量子力学と相対性理論は、
人類の自然界に対する認識を一変した。この世界は、
われわれが普通に感覚を通じて認識しているような単純なものではない。
この世界を、われわれの感覚も理性もまともには捉えておらず、捉えられない。
それがはっきりしただけでなく、
量子力学と相対性理論は避けがたく、相いれないものであることも分かったのである。

世界を統一的に理解する。可能ならたった一つの方程式で。
これが科学の究極目標である以上、
世界が相容れない二つの理論からなるというのはいかにも容認しがたい。
そう考えた天才たちは、
これらを統合する新理論の探求に没頭し、ついにその端緒を手に入れた。
物質の基本単位を、大きさが無限に小さい0次元の点粒子ではなく、
1次元の拡がりをもつ弦(糸)と考えることで、
量子力学と相対性理論を包含する統一理論を構築し、
宇宙の姿やその誕生のメカニズムまでをも解き明そうというのである。
数学的にあまりにも複雑・難解であるにもかかわらず、この理論は現在、
科学者らが納得し得る統一理論にもっとも近いとされている。

ひるがえって東洋の聖賢の足跡をたどってみると、
彼らもまた、この世界が精妙な「糸」からなると語ってきた。
世界を創造した糸、世界を構成する糸、生命の進化を促し、幸福をもたらす糸……。
これらもまた、糸なのであるが、現代物理学のそれと違うのは、
後者がわれわれの感覚や理性では捉えられず、数学でしか表現できないのに対し、
前者は感覚とも理性とも矛盾しないという点だ。
それどころか、それはわれわれの日常使う言葉で表現されている。

相対界に生き、進化の過程をたどるわれわれに必須の糸。
相対界をかたちづくる糸。
相対界のすべてを支配する糸。
その全貌と用い方を、<Art5>で詳述する。
5月8日、四年半ぶりの開講となるが、
前二回よりもさらに重厚、かつ洗練された内容で臨みたい。